朝日新聞東京版(2012.11.15)「チェック 石原都政」欄に稲葉剛へのインタビュー記事が掲載

投稿日時 2012-11-22 12:53:13 | カテゴリ: 報道記事

 

http://www.asahi.com/special/2012tochijisen/intro/TKY201211150340.html

 

〈チェック 石原都政〉
困窮の現実、知ろうともせず

 

「自立生活サポートセンター・もやい」 代表理事 稲葉剛さん

 

Q、石原氏は貧困問題とどう向き合ってきましたか。

 住まいに困窮する人が増えても、向き合おうとしなかった。あくまで個人の問題と矮小化してしまう考え方でした。

 2008年にインターネットカフェに寝泊まりする人たちについて「200円、300円で泊まれる宿はいっぱいあるんだよ。そこへ行かず、ファッションみたいな形で泊まって」と発言しました。

 今の時代、そんなに安く泊まれる所はありません。私たちの抗議を受けて事実誤認を認めたが、「ファッション」という認識は撤回しませんでした。まさに象徴的な発言で、不確かな知識をもとに「貧困は自己責任」と主張する。現実を知らないし知ろうとしない。

 

Q、政策はどうでしょうか。

 低所得者の暮らしを改善することに関心がなく、お金を持つ人のための都市空間をつくることに税金を費やしたと言えます。その結果、貧困者はさらに暮らしにくくなり、格差を拡大させたのです。

 04年には組織再編で、住宅局をなくしてしまった。ネットカフェ難民や、住まいに困窮する高齢者が増えても、都営住宅は増やさない政策を続けてきました。

 

Q、住宅の数は世帯数を上回り、足りているという見方もありますが。

 確かに民間では空き家が増え、住宅ストックとしては足りています。でも、借りられない人が増えている。特に高齢者の一人暮らしは入居差別が激しい。孤独死を警戒され、なかなか貸してもらえません。

 生活保護受給者が入れる「福祉可」の物件は老朽化し、劣悪なものが少なくない。こうした入居差別をなくすには、行政のサポートが必要だと思います。

 

Q、ネットカフェに入店する時に本人確認を義務づける都の「ネットカフェ条例」で
     改善を要望しましたね。

 身分証を持っていない人も多く、利用できないのは問題です。ネットは就職活動のツールの一つ。使えないと情報が遮断し、社会から孤立してしまう。

 派遣切りが社会問題化した時には支援のためのパンフレットを店内に置いたが、そうしたアプローチもできなくなる。ハローワークの登録カードなどでの代用を提案したが、受け入れてくれませんでした。

 

Q、生活保護のお年寄りが犠牲になった高齢者施設「静養ホームたまゆら」の火事は
    都民にも衝撃的でした。

 都内では特別養護老人ホームなどの受け皿が足りません。墨田区は生活保護受給者に遠くの受け入れ先を紹介せざるをえず、担当者は苦渋の選択だったと言っていました。

 石原都政だけの問題ではないが、住宅政策や高齢者福祉政策の貧困がもたらした部分が大きいのではないでしょうか。

 

Q、住まいの貧困問題を解決するため、新知事にはどんなことを期待しますか。

 何よりも貧困の現実と向き合う姿勢を求めたい。東京では住まいに困窮する人が多く、低所得者向けの住宅政策の拡充を期待しています。

 具体的には民家の空き家を活用した借り上げ型の公営住宅の増設や、入居差別をなくすための公的な入居保証制度の創設など、住まいの安全網を充実させてほしい。

(聞き手・黒川和久)

 

■住まいの貧困問題

 派遣労働の規制緩和などで非正社員が膨らむ中、2008年のリーマン・ショックによる経済危機で雇用環境は悪化。「派遣切り」が相次ぎ、ハウジングプア(住まいの貧困)は広がった。

 一方、都によると、増え続けてきた都内の住宅は1968年に世帯数を上回り、その差は拡大。08年は総世帯数598万人に対し、住宅数は678万戸。住宅が世帯を1割強、80万戸上回っている。

 こうした状況から石原都政では都営住宅について建て替えはしているが、00年以降、新規の建設はせず、管理戸数を抑制する政策を進めてきた。

 今年3月発行の都住宅マスタープランでは「既存ストックの有効活用を図り、困窮する都民に公平・的確に供給する」と記す。抽選なしで困窮度の高い人から順に入居を認める仕組みなどを引き続き実施する。

 ただ、都営住宅は主に家族向けに建てられてきた経緯などから、特に単身者向けが不足気味。今年8月に225戸を募集した単身者向けの抽選は平均47倍の高倍率だった。

 群馬県渋川市の高齢者施設「静養ホームたまゆら」で09年3月に起きた火事では、犠牲になった10人のうち6人が墨田区の生活保護受給者だった。行き場のないお年寄りが東京を離れ、地方の無届け施設に集められる実態が浮き彫りになった。

 

■いなば・つよし 1969年、広島県生まれ。東京大大学院(地域文化研究専攻)中退。94年、新宿駅西口の地下道から野宿者を強制退去させた都に抗議したのをきっかけに支援活動を始めた。01年「もやい」を湯浅誠さんらと設立。もやいで2千世帯のアパート入居保証人を引き受け、年間200人の生活保護申請に同行する。「住まいの貧困に取り組むネットワーク」の世話人も務める。

 

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