Mainichi-JP2009年5月11日付けの記事でハウジングプア「追い出し屋」に閉め出され(上)。という記事が掲載されました
投稿日時 2009-5-13 14:34:04 | トピック: 報道記事
| ハウジングプア「追い出し屋」に閉め出され
http://mainichi.jp/life/housing/news/20090511ddm013100008000c.html 失業や病気で収入が途絶えたとたんに、安心して暮らせる場所を失う。そんな状況を呼ぶ言葉が生まれた。「ハウジングプア」。住まいをなくした人たちを追うと、さまざまな制度の不備が浮かぶ。【小林多美子】 ◇家賃滞納で鍵交換、荷物撤去…保証会社の不法野放し
「あさってまでに家賃を払わなければ、18日に鍵を閉めます」。昨年11月15日、大阪市の男性(49)は契約していた家賃保証会社から電話で告げられた。10月末に大家に払う予定だった11月分の家賃・光熱費計6万円を滞納していた。
予告された18日夜。帰宅すると玄関のドアに新しい鍵がつけられていた。「滞納した自分が悪い。でもこんなに早く閉め出されるなんて……」。1カ月ほどして戻ってみた。鍵が開いていたので中に入ると、置いていた家財道具や服、トイレットペーパーまで、すべてが消えていた。
短期間の家賃滞納を理由に入居者を強制的に退去させる「追い出し屋」。当時の男性は、その言葉すら知らなかった。
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男性は約20年前に統合失調症を発症し、家族と疎遠になった。障害で働けず、生活保護を受給。2年半前に携帯電話サイトで「敷金・礼金ゼロ」に引かれてこのアパートを見つけた。連帯保証人になってくれる親族はなく、不動産業者の求めで保証会社と契約した。
月12万円の保護費から家賃や生活費を引くと、ぎりぎりの生活。1年がたつころから家賃の支払いが遅れ始めた。遅れた分も1カ月以内には払ったが、保証会社から違約金5000円を請求された。それを払うたびに翌月の支払いが遅れる繰り返しに陥ったという。
部屋に戻れなくなった男性はカプセルホテルに身を寄せた。隣の人が寝返りを打つ音まで響く。精神的に不安定になり、薬の服用回数が増えていく。閉所恐怖症なので扉を開けて寝ていたら、財布を盗まれてしまった。
住まいを失って気づいたことがある。以前は1人で部屋にいると気がめいるので、街を歩いたり公園で過ごすことが多かった。でもカプセルホテルでの暮らしは、どこにいても落ち着かない。「安心して外に出られたのも、帰る家があったからだったんだ」
福祉事務所は「年内に新居を決めないと、生活保護を止める」という。そうなればカプセルホテルにもいられなくなる。大阪の弁護士や司法書士らで作る「賃貸住宅追い出し屋被害対策会議」を知って駆け込み、保証会社の行為が違法だと教えられた。
「法律の知識もなく、業者の言われるがままになってしまった」。弁護士の協力で生活保護も続けられ、月4万2000円のアパートに入居できた。支出が減り、もう家賃を滞納することもない。今年1月、保証会社らを相手に、精神的慰謝料と撤去された荷物の賠償計140万円を求める民事裁判を大阪簡裁に起こした。保証会社側は取材に対し「係争中で、コメントは控える」としている。 新しいアパートで暮らす男性。住まいとともに心の安定も戻ってきた
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追い出し屋による被害は昨年秋に表面化した。国土交通省によると、全国の消費生活センターなどへの相談は06年度の29件から07年度には68件に急増している。鍵の無断交換や荷物の撤去を強行したり、深夜しつこく訪問する。消費者契約法の上限利率(延滞家賃に対し年14・6%)を超える違約金を請求する業者もある。
本来、入居者には借地借家法で居住権が認められており、判例上、大家が家賃滞納を理由に退去を求めるには「信頼関係が破壊されるほどの滞納」が必要で、その期間は半年程度とされている。国交省も部屋への無断立ち入りや鍵の交換は「住居侵入罪や民法上の不法行為にあたる可能性がある」としている。
追い出し行為を行う業者の多くは家賃保証会社や不動産管理会社だ。特に保証会社は家族関係が希薄になったこともあり、ここ数年で増加。民間賃貸契約で連帯保証人を立てられずに保証会社を利用した契約は07年度に25%を占める(日本賃貸住宅管理協会調べ)。ニーズの高まる業界だが、法的な規制はなく貸金業への規制強化で追い込まれたヤミ金融などが流れ込んでいるともみられる。
さらに、公的な保証制度が機能していないことも温床となっている。財団法人「高齢者住宅財団」は01年度から高齢者や障害者への保証事業を実施しているが、07年度までの利用者数は高齢者が560人、障害者は3人どまり。大阪市の男性は「制度があることも知らなかった」という。
今年2月に発足した「全国追い出し屋対策会議」は国に対し、保証会社への登録制度の導入と規制強化を要望。メンバーの徳武聡子司法書士は「急な出費で家賃を滞納せざるをえないほどの低所得者が増えているのに、国の支援策はあまりに不十分」と指摘する。 ◇ハウジングプア
働いても貧困から抜け出せない「ワーキングプア」にちなみ、貧しさゆえに安定した住まいを持てない人々の現状を知ってもらおうと、生活困窮者らを支援するNPO「自立生活サポートセンター・もやい」代表の稲葉剛さん(39)が考えた。追い出し屋が絡む家に住む人や寮付き派遣の労働者など、家はあるが不安定▽ネットカフェやカプセルホテルなど、屋根はあるが家ではない▽路上生活−−などの状態を指す。
今年3月にはNPOなどが「住まいの貧困に取り組むネットワーク」を結成、あらゆる人への住居の保障を求めている。世話人でもある稲葉さんは「家は人が働き、暮らす基盤。収入が多くない人も家にかかる支出が少なければ、生活困窮に陥らずに済む」と、公的住宅の拡充などを訴える。
http://mainichi.jp/life/housing/news/20090512ddm013100108000c.html ◇6畳間に2人、食費込み月10万円 NPOに救われ
住まいの貧困(ハウジングプア)に陥るのは職のない男性ばかりではない。路上にはさまざまな事情で家族とのつながりを失った女性たちの姿もある。
一昨年の秋。さいたま市出身の女性(60)は市内の交番近くのベンチで身を縮め、冷え込む夜を過ごしていた。「おばちゃん、風邪ひくなよ」。警官が優しい声をかけてくれる。路上生活を始めるのは怖かったが、ここなら襲われる心配もないだろうと思った。
わが家と呼べる場所を失ったのは15年前のことだ。酒を飲んでは暴力を振るう夫から逃れるため、ボストンバッグ一つで家を出た。養護施設で育った女性に頼れる身内はない。サウナや健康ランドに寝泊まりし、所持金は半年で尽きた。
事情を知った知人がアパートに同居させてくれた。パート勤めを始めたが、知人が突然病気で倒れ、月6万円の家賃が払えなくなった。知人の家族は「家を出ていけ」と言う。見かねた自治会長が福祉事務所に付き添ってくれたおかげで生活保護の受給が決まった。
福祉事務所に紹介された住まいは低額料金で簡易住宅を提供する無料低額宿泊所だった。6畳一間に2人の生活。生活保護費は封筒のまま寮長に渡すように指示された。月12万円のうち、食費なども含め10万円近くを差し引かれる。食事の時間に少しでも遅れると食べさせてもらえない。寮長は高圧的で、不満を言える雰囲気ではなかった。
耐えきれずに飛び出し、路上で夜を明かすしかなくなった。「知り合いにこんな姿を見られたら……」と人の目におびえながら、図書館などでただ時間をつぶす日々。親切な警官には「もう一度生活保護を受けては」とすすめられたが「またあんな所に入れられるなんて」と、気持ちは動かなかった。
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「あそこに行けば大丈夫だよ」。野宿生活が2カ月目に入ったころ、路上で知り合った仲間から、さいたま市で生活困窮者をサポートしているNPO「ほっとポット」のことを教えてもらった。
ほっとポットは県内20カ所の民間集合住宅を借り上げ、すぐアパートに入居できない人たちに敷金・礼金なしの安い家賃で貸し、生活支援も行っている。代表の藤田孝典さん(26)は言う。「好きで路上生活をしている人なんていません。いったん家を失うと、住所がないことも障害になり、次の住居を探すこともできないのが現実なのです」
会では年間約500人から相談を受けているが、そのうち8割は住む場所を失った人や、家賃の滞納などで失う直前の人たちという。生活が困窮し、行政に保証人や敷金・礼金などの初期費用がないことを相談しても「自分で探してください」と言われ、ここにたどり着く人も多いという。
ほっとポットでは支援付きアパートの紹介だけでなく、市内の不動産業者の協力を得て、一般の民間賃貸住宅探しのサポートもしている。保証人がない人の賃貸契約の際には緊急連絡先になり、入居後も生活支援を続ける。協力している不動産業者は「生活困窮者は何かあった時に連絡できる身寄りがない人が多く、大家から敬遠される。ほっとポットのようなサポートなしに部屋を見つけるのは難しいだろう」と話す。
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女性はほっとポットの支援付きアパートに入居して、また生活保護を受けることができた。8畳一間の1人暮らしで、家賃は月4万5000円。風呂とトイレは共同だが「普通の暮らしができるようになっただけでも、ありがたい」。初めは黙りこんで下を向いてばかりだったが、少しずつ持ち前の笑顔が戻り、今はスタッフと冗談を飛ばし合う。
昨年秋の不況以降、支援付きアパートへの入居希望者は増え、待機者もなくならない。今年になって女性はチラシ広告の折り込みのアルバイトを始めた。路上生活で痛めた腰はまだ治らないが、自立への思いは強まる。
「困っている仲間たちのために、少しでも早く部屋を空けてあげたい。働けるだけ働かなきゃ」【小林多美子】 ◇全国で約1万3000人が入居
無料低額宿泊所は路上生活者など生活が困窮している人に、無料または低額な料金で住居を貸し付ける民間宿泊所。社会福祉法が定める社会福祉事業で、厚生労働省によると、08年6月時点で全国415カ所に1万2940人が入居している。厚労省と国土交通省による「ホームレスの自立支援等に関する基本方針」では、住居が緊急に必要な人に活用するとされており、路上生活者が生活保護を受給した際、福祉事務所に紹介されることが多い。
だが、入居者への人権侵害が問題視される宿泊所も現れている。今年1月には埼玉県内の宿泊所が入居者の預金通帳などから無断で利用料を天引きしていたことが分かった。藤田代表はこうした民間宿泊所について「地域社会から切り離された生活になり、社会生活に復帰したとは言い難い」と指摘。「国は路上生活者の自立支援を進めているが、再び路上に戻らないためにも、まずは安心できる住まいを確保することから始め、就労支援などのステップに進むべきだ」と提言する。 【関連記事】 無届け施設:生活保護受給者1万4千人が入居 厚労省集計 たまゆら火災:墨田区から入所 最後の1人退所 不正受給:扶養手当9年で562万円 札幌の男性 群馬老人施設火災:発生1カ月 問いかける「10人の死」 地デジ:購入困難世帯にチューナー配布…法改正
http://mainichi.jp/life/today/news/20090513ddm013100121000c.html ◇建て替えへ新規入居中止 支援団体「失職者に開放を」
東京駅から電車とバスを乗り継いで1時間足らず。約19ヘクタールの土地に80棟が建つ花畑(はなはた)団地(東京都足立区)が見えてくる。ベージュ色の壁は所々塗装がはがれ、天気のいい週末も、ベランダに洗濯物を干す部屋はまばらだ。
2725戸のうち現在、約1000戸が空き部屋。所有・管理する独立行政法人・都市再生機構(UR)が約半数の棟を建て直す計画を打ち出し、98年から新規入居を中止しているからだ。対象でない棟の空き部屋は、工事で一時部屋を失う住民の仮住まいに使うという。完成後の戸数は現在の5〜6割程度に減る見通しで、土地の一部は民間売却も検討されている。
花畑団地ができたのは1963年だ。入居者の多くは働き盛りの親と子どもたちで、安い家賃は国の経済成長や子育てを支えてきた。当時4歳で越してきた女性(49)は「ここに来るまでは、一家4人で4畳一間、共同トイレの長屋住まい。2DKの広さに感動しました」と懐かしむ。
周辺のインフラが不十分だったため、住民たちは力を合わせ、路線バス開通や保育園の設置に奔走した。バスは毎朝、背広姿のお父さんたちを詰め込み駅へと走った。それも今では通院する高齢者の姿ばかり目立つ。入居世帯の54%は世帯主が65歳以上。新規入居が途絶えたこの10年で、高齢化は一気に進んだ。保育園は取り壊される予定だ。
「私たちにはこの団地を作り上げてきた思いがある。こんな寂しい場所になってしまうなんて」。同じく建設当時から暮らす女性(75)が薄暗い窓の並ぶ棟を見上げた。「もっと若い人の姿を見たい」
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「ここに住み、ちゃんとした仕事に就ける環境ができると助かるのに」。今年2月、市民団体が企画した花畑団地の見学ツアーで、参加した40代男性がこぼした。男性はインターネットカフェに寝泊まりし、日雇い派遣で生活していた。
ネットカフェの宿泊には1カ月当たり5万〜6万円はかかるとされる。しかも住所がないため、就職活動の大きなハードルになってしまう。花畑団地には単身者向きの1DKの部屋もあり、最も安い家賃は月2万9600円だ。
URが戸数削減を予定しているのは花畑団地だけではない。現在の77万戸のうち18年までに5万戸を削減し、長期的には40年間で7割程度にまで減らす計画だ。担当者は「人口減少の見通しに沿った数字。需要も減るため、現状の戸数では供給過剰になる恐れがある」と説明する。
理由はそれだけではない。政府が「行政改革」の名の下で進める独立行政法人のスリム化。07年12月に閣議決定された整理合理化計画で、URに「リニューアル、規模縮小、売却などの方向性を明確にした再編を計画し、規模の適正化に努める」よう求めている。
見学ツアーを企画した「住まいの貧困に取り組むネットワーク」はURに対し「空き部屋を派遣切りなどで住まいを失った若者らに開放すべきだ」と、計画の見直しを要望している。
政策の貧しさがうむハウジングプア(住まいの貧困)という現実。不況や雇用不安が広がるなか、住まいのセーフティーネットに求められる役割は高まる。【小林多美子】 ◇自治体財政難…公営住宅も削減傾向
自治体の公営住宅も財政難などで全国的に削減傾向にある。05年の219万戸から、2年間で1万戸減。応募倍率(07年度)は全国平均で8・7倍で、最も高い東京都は28・3倍に上る。URは民営化を視野に入れた見直しが進められている。
戦後日本は住宅ローンによる持ち家政策に力を入れ、住宅総数に占める公的住宅の割合は7%と、イギリス(20%)やフランス(17%)に比べはるかに低い。両国には家賃補助制度もあり、全世帯の約2割が受給している。「居住福祉」(岩波新書)の著者で神戸大の早川和男名誉教授は「住まいの保障は本来、医療や教育と同様に政府が社会政策として取り組むべき課題。日本は民間に委ねすぎてきた」と指摘する。
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