「ホームレス状態」からの脱却を支援して

投稿日時 2006-6-9 21:41:54 | トピック: 発表資料

「新宿区ホームレスの自立支援等に関する推進計画」所収のコラム



「ホームレス状態」からの脱却を支援して

NPO法人自立生活サポートセンター・もやい代表理事 稲葉剛

「自立支援センターに入って、就職も決まり、アパートに入るお金も貯まったけど、保証人が見つからない」という相談がきっかけとなり、私たち「自立生活サポートセンター・もやい」(以下、<もやい>と略す)の活動は始まりました。非営利の事業としてアパートの連帯保証人提供を行う団体として、2001年5月の発足以来、延べで820人を超える人々に連帯保証人を提供してきました。その利用者は、自立支援センターの入所者だけではなく、生活保護施設(更生施設、民間宿泊所など)や心身障害者施設の入所者、ドメスティックバイオレンスの被害者など多岐にわたっており、広い意味での「ホームレス状態」にある人々を対象にしています。

その中には、自立支援事業や生活保護などの行政支援を受けず、自力で野宿生活から抜け出した人もいます。路上やカプセルホテル、サウナなどで暮らしながら働いたお金をこつこつと貯めて、アパートに入った人、年金受給の手続きを<もやい>が手伝い、無事支給された年金でアパートに入った人もいました。一口に「ホームレス」、「路上生活者」と言いますが、年齢や就労状況、抱えている問題はさまざまで、一人ひとりのニーズに合った支援が求められていると痛感します。

<もやい>では、地域生活への入り口となる連帯保証人提供だけでなく、入居後の生活相談、孤立化を防ぐための交流事業にも力を入れています。それは、現代の日本における「ホームレス問題」は、失業・倒産などによる「経済的な貧困」だけでなく、地域で相談できる相手がいなかったり、保証人になってくれる人がいないといった「人間関係の貧困」も大きな要因になっていると考えるからです。「アパートに入ったけど、一週間誰とも話をしなかった」、「また失業して家賃が払えなくなったけど、誰に相談していいのかわからない」という話も珍しくありません。<もやい>では、法律家などの専門家と連携して、さまざまなトラブルに対応する生活相談を行うと共に、飯田橋にある<もやい>事務所の一室を開放して、孤立化を防ぐための「交流サロン」を毎週土曜日に開催しています。「交流サロン」は新たに地域生活を始めた方々がお互いの交流を深める場として活用されていますが、そこを拠点にその地域で長く生活している方々との交流も始まっています。

また<もやい>では、「ホームレス」にまつわる差別や偏見をなくしていくための活動も行っています。「『ホームレス』というのは、本来、特定の『状態』を指す言葉であって、『ホームレス』という名前の人がいるわけではない」ということを知識としてではなく、体験としてわかっていただくため、高校や大学・専門学校、地域の集まりなどに積極的に出かけて行き、出前講座を行っています。出前講座には、野宿の当事者や経験者も参加して、それぞれの体験を語っていく中で、「顔と顔の見える関係」を作っていきます。残念ながら東京都内では、十代の若者が野宿をしている人を襲い、重傷を負わせたり、命を奪ったりする事件が毎年のように起こっていますが、そうした事件の背後にある差別意識を少しでもなくしていきたいと考えています。

私たちの活動は小さなものですが、今後とも「『ホームレス状態』に置かれている人々を私たちの社会がどのように迎え入れることができるのか」ということを念頭に置きながら活動を続けていきたいと考えています。




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