現在、もやいスタッフの大西連が、「新宿区第III期ホームレスの自立支援等に関する推進計画策定委員」に任命され、区のホームレス施策の計画策定に参画しています。
委員会に提出した「意見」を掲載します。(大西連)
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新宿区第III期ホームレスの自立支援等に関する推進計画策定委員会における意見
大西連
■はじめに
平成24年1月に実施された「ホームレスの実態に関する全国調査(生活実態調査)」によれば、路上等のホームレスの数は9576人であり、平成15年度が25296人であったことから分かるように、大幅に減少しています。
参考1:平成24年度ホームレスの実態に関する全国調査検討会報告書
http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r9852000002rdwu.html
しかし、調査報告では、ホームレスの数は減少していると言えるものの、その背後には、様々な居住の不安定を抱える層が存在し、これらの層が何らかの屋根のある場所と路上を行き来している、と指摘されています。
本年8月1日に政府は「ホームレスの自立の支援等に関する基本方針」(以下、基本方針と表記)を発表しました。このなかでも、上記の指摘と同様に、
[1] 固定・定着化が進む高齢層に対する支援
[2] 若年層に対する支援
[3] 再路上化への対応
の3点が主なポイントとして挙げられています。
参考2:ホームレスの自立の支援等に関する基本方針(平成25年7月31日厚生労働省・国土交通省告示第1号)
http://www.mhlw.go.jp/bunya/seikatsuhogo/homeless08/pdf/data.pdf
一方、新宿区を見てみると、ホームレスの概数は平成16年の1102人(23区内5497人)が最多であったものの、その後減少して平成25年には162人(23区内1117人)となっています。
この要因はもちろん様々なものがあると考えられますが、ホームレス自立支援法に基づく自立支援事業や地域生活移行支援事業、生活保護による保護など、制度の拡充や、地域のNPO等相談機関の働きが、一定程度の効果をあげているものと思われます。
しかし他方で、新宿区生活福祉課統計資料(表4)を見ると、ホームレス等の方からの相談は、こちらも毎年の減少傾向にあるものの、平成24年度で25728件にのぼります。
その内訳をみると、食糧のみが15917件、送院通知が678件、来所相談9133件(うち相談のみが7449件、申請受理が1684件)となっています。(とまりぎへの相談は5727件)。
新宿区内のホームレス数が162人であることを考えると、来所相談の9133件という数字はとても大きな数字です。
参考3:新宿区生活福祉課統計資料
http://www.city.shinjuku.lg.jp/content/000041514.pdf
このことからも、データ上ホームレスの数は減っているものの、
[1] 長期の路上層は食糧支援や医療単給などが多く、限定的な支援にしかつながっていない。
[2] 稼働層が再度路上化して相談にくる。
[3] 保護や支援に定着できない(傷病障害・職歴生活歴等から課題がみられる)層が多い。
など、困難さや課題が多くて結果的に路上に残っていたり、一度就労や制度につながって自立しても再度の路上化にいたっている、などという可能性があります。
実際に、「もやい」によせられる相談も(新宿区内からだけではないものの)、直近の動向を見ると、10〜30代の若年層の相談者が約30%を占めていたり、身体・精神などの健康状態の問題を抱えている方が全体の50%をこえていたりと、路上生活や、不安定な生活をしている方が置かれている状況の変化が見てとれます。
参考4:もやい生活相談分析調査
http://www.moyai.net/modules/d3blog/details.php?bid=1347/
また、せっかく一度就労により自立しても、雇用状況や労働環境が悪かったり、住み込みなどの仕事と住まいがセットになった不安定な状況におかれて、失職後に再度の困窮化や路上化をしてしまう方が増えています。
同じく、病気や障害の影響や、これまでの成育歴や職歴・生活歴の影響からか、制度や支援につながっても長続きせずに自ら失踪してしまうなど、制度や支援のリソース(多人数部屋など環境が悪い宿泊施設等)の不足によって、本来支援や保護を必要としている方を支えきれない状況も多く目にします。
これらの現状を前提に、以下にいただいた問いに対する意見を述べます。
■1. 新宿区のホームレス支援対策に今後、取り組みが必要な課題・目標
新宿区第II期ホームレスの自立支援等に関する推進計画(以下「第II期計画」と称す)に掲げられた8つの柱であるそれぞれの事業については「公共施設の適正管理」に関しては野宿者の排除につながってしまう懸念があり賛同できないものの(項目からの削除をお願いします)、その他の「相談体制の強化」「アセスメントシステムの構築」「福祉的支援の条件整備」「施設住宅資源の確保」「就労支援」「人的資源の開発とネットワークづくり」「人権啓発」の各項目に関しては、概ね賛同できる方向性のものとなっています。
参考5:新宿区第II期ホームレスの自立支援等に関する推進計画
http://www.city.shinjuku.lg.jp/content/000060668.pdf
とはいえ、それぞれの項目について、実際にどのように整備され、どう実行されたのか検証をおこなわなければなりませんが、今回事務局に問い合わせたところ、個人情報のことがあるため公表できないと言われてしまったものもありました。
まず、私から提案したいのは、これらのデータ(実績や内容)の可視化(可能なものは)とその検証をおこなっていくことです。
そもそもが「計画」を作るにあたって、既存の事業の実績や、利用者の概況等の量的質的データがなければ、適切な検証をおこなうことは難しいと思います。
より効果的で必要性の高い施策を実現するためにも、それらの調査や分析を積極的におこなっていくことをお願いしたいです。
また、これは国に対しての提起の話とも少し重なるのですが、「ホームレス」の定義の変更をおこなうべきだと考えます。
先述した「ホームレスの実態に関する全国調査」にもあるように、近年、これまでの国の定義であった「都市公園、河川、道路、駅舎その他の施設を故なく起居の場所とし、日常生活を営んでいるもの」以上に、その背後にさまざまな不安定住居にある生活困窮者の増加が明らかになっています。
新宿区の第II期計画においては、国の定義にプラスして「ホームレス生活を余儀なくされるおそれのある人」が加えられています。
「ホームレス」とは、本人にとっての生活上のプライバシーが担保され、安定かつ安心して居住することができる環境を、失ってしまった「状態」です。
例えば、「脱法ハウス問題」がメディア等でも報道されましたが、レンタルルームやレンタルオフィスなどの不安定な住居に居住している方も、仮に就労自立していれば、現行のホームレス施策ではカバーされません。
同様に、例えば制度利用をしていても、複数人部屋の宿泊施設等に入所し、プライバシーの担保など居住環境が整っているとは言えない状況で生活を余儀なくされている場合、仮にそこが一時的な宿泊であったとしても、安心できる住居を確保しているとは言い難いものです。
こういった実情を鑑みて、第III期の推進計画においては、簡易宿泊所、無料低額宿泊所やゲストハウス、また、知人宅や施設、病院、矯正施設などでの生活を余儀なくされている「状態」にある方に対しても、支援を拡充するべく、その定義と対象を広げるべきです。
また、基本方針にみられるように、現在のホームレス支援施策では、「就労」を「自立」と位置付けているものが多いです。しかし、私たちが日々の支援現場で第一に考えているのは、必ずしも「就労」というゴール設定による「自立」ではなく、地域社会の中で安心して暮らせる生活基盤を整えることです。
近年、「孤立死」などの言葉とともに「社会的孤立」の問題が認知されてきましたが、見守りや居場所的な活動も含めた、地域社会の中で「暮らし続ける」ための支援も求められてきています。
特に精神・知的障がいなどの困難さを抱えている方の場合などは、まずは安定した「生活」、それを支える「住居」を得ることによって初めて、その人なりの「自立」への第一歩を踏み出すことが可能になると考えています。
それに、雇用環境や労働環境が整っていなければ、せっかく「就労」しても、再度路上生活へといたってしまう、病気などの更なるリスクを負ってしまう可能性が大きいため、同じ「就労」でもより質の高い雇用を確保していかなければ、ホームレス状態にある方が「自立」し、その状態に留まることは困難です。
そういった実状を鑑みても、やはり「生活保障」や「住居」の確保を優先しておこない、その先に安定した雇用に就くための支援や、地域雇用を充実させる施策を実施していくほうがより効果的です。
地域の社会資源や財政的な裏付けが限られたなかで、これらの課題に取り組むことは困難をともないますが、一人でも多くの、望まずに「ホームレス状態」での生活を余儀なくされている方を支えていくために、官民あわせての連携の強化と体制整備が求められています。
■2. 1を実現するために、第III期推進計画において新たに必要な事業、または見直しが必要な事業
前項でも述べたように、第II期計画の各項目については、「公共施設の適正管理」以外については方向性としては賛同できるものです。
なので、第II期計画を基本にしつつそれぞれの項目ごとに新設、もしくは見直す事業を以下に提案します。
★相談体制の強化
「相談体制の強化」に関しては、すでにアウトリーチや拠点相談事業(とまりぎ)、自立支援システムによる訪問など、ベースとなる事業は用意されています。
しかし、先述したように、新宿区内のホームレス数は162人であるにも関わらず、来所相談が9133件(これにプラスして「とまりぎ」への相談は5727件)と、現状で有効な支援ができているかというと、必ずしもそうとは言い切れません。
それらの数字の中身はどうなっているのか、どういった方たちが相談に来て、どのような対応をしたのか、窓口で支援からこぼれたのか、途中でこぼれてしまったのか、まずきちんと検証し、その上で実際の現場において粘り強い相談支援をおこなっている各担当者に対してフィードバック&サポートをおこなっていく必要があります。
この項目に関しては、既存の事業の実績やデータをもとに検証と分析をおこない、その重点化と実態に即したアップデートをおこなっていくことが求められます。
★アセスメントシステムの構築
「アセスメントシステムの構築」に関しては、現在チェック項目を作り、見直しを進めているとの報告がありました。現在、政府がその策定に向けて動いている生活困窮者自立支援法のモデル事業のなかで、こういったアセスメントシートやプランシートといった類のフォーマット案が検討されています。
そういった他の施策や類似事業の様式等を参考にしながら、より相談支援に適した形に変えていくことが求められます。
また、今後の課題としては、区内や首都圏のNPO等民間団体とも、共通の情報共有シートのようなフォーマットを作成し、官民のスムーズな連携と、相談者本人が何度も同じ話をすることにともなう負担や傷つきを防ぐような仕組みの構築を検討することも必要ではないでしょうか。(参考:千葉市のDV支援における「情報共有シート」)合わせて検討をお願いしたいです。
★福祉的支援の条件整備
「福祉的支援の条件整備」に関しては、既述の新宿区生活福祉課統計資料(表8)を見ると、食糧現物の支給が15917件と効果をあげている一方で、逆に言えば、そこから本来必要な医療や住まい、生活保障への支援につながっていない、と指摘することができます。
食料やシャワーの提供は、あくまで支援につながるための第一歩としての施策で、本来ホームレス状態に留めないための「入口」の支援であるはずです。今後は、より積極的に住まいや生活保障などの支援につながるようにアプローチしていくことが求められます。
★施設住宅資源の確保
「施設住宅資源の確保」に関しては、いかに居住環境の良いシェルターや施設などの、アパート生活を始めるまでの一時的な住まいを確保することができるか、ということに尽きると思います。
実際に、区内においては、残念ながら多人数部屋の、宿泊所や無料低額宿泊所が大半で、自立支援センターにおいても複数人部屋という観点では同様です。
もちろん、新宿区内の高額な用地取得費などから、環境改善が困難であることは理解できますが、しかし、この多人数部屋や一部施設の居住環境の悪さが、一度制度につながっても、自ら再度路上に戻ってしまう方を生んでしまう大きな理由の一つになっています。
また、そういった環境の悪い宿泊所や宿泊施設に、一時的でなく長期的に滞在してしまう方が増えています。先項で述べましたが、プライバシーが担保され、安定・安心して生活を営むことができる環境を得て初めて、ホームレス状態から脱却したと言えます。
そういった、環境の悪い宿や住居で生活せざるを得ない方たちは、広義の意味での「ホームレス状態」ということができます。
また、かりそめにも一時的で済むように、早期の転宅支援や地域移行支援をおこなっていくべきです。
そのためにも、現状の宿泊所、宿泊施設の利用や基準の見直し、そして、早期の転宅支援の仕組み作りをおこなうべきです。
★就労支援
これも先述しましたが、せっかく「就労」しても、雇用環境や労働環境が整っていなければ、再度路上生活へといたってしまうリスクが高くなってしまいます。中長期的にみたときにどういった就労支援のあり方が必要なのか、より質の高い雇用を確保して、いかにホームレス状態にある方の自立を支えることができるのか、職業訓練や中間的就労、社会参加の機会なども含めて(これらは現在「生活困窮者自立支援法」の枠で議論されていますが)検討するべきです。
この問題に関しては、場合によっては公的な雇用創出なども検討しながら、早急に関係機関やNPO等民間団体の「連絡会」を設置し、議論していくべきです。
★人的資源の開発とネットワークづくり
「人的資源の開発とネットワークづくり」に関しては、広域的な関係機関会議の設置には残念ながらいたっていないとの報告がありました。ぜひ、設置に向けて働きかけていただければと思います。
また、福祉関係職員の研修の実施については、可能であればNPO等民間の支援団体のメンバーとの交流や、相互研修の受け入れ等人材交流の場をセッティングし、官民連携の足がかりにするなどの事業を検討してもらえればと考えています。
★公共施設の適正管理
「公共施設の適正管理」に関しては、野宿者の排除につながってしまう懸念があり、賛同できません。項目からの削除をお願いします。
★人権啓発
「人権啓発」に関しては、新たな事業として、ホームレスや貧困をテーマにした小学校や中学校のなかでの教育プログラムをおこなうことを提案します。
先だっても江戸川区でホームレス状態の方が子どもに襲撃される痛ましい事件が起きましたが、学校教育の場できちんと考える機会をもつことが何よりも大切だと思います。
また、庁舎や図書館、区の施設等に、ホームレスや貧困を含めたお困りごとに対して、それを見た人がすぐに相談に行けるように、目にとまるところに、さまざまな支援団体の連絡先を記載したパンフレットやポスター等の相談先リストを作成して、配布、掲示、HPにアップすることを提起します。
■3. 1を実現するために、国や都への要望等が必要な事項
先述した「ホームレス」の定義の変更や、基本方針における就労を前提とした「自立」の概念については、早急に国に対して見直しを求める必要があります。
また、秋の国会に上程されると言われている「生活困窮者自立支援法」も同様に、就労自立を前提とした施策に偏向しており、見守りや、社会的孤立、日常生活自立などの視点は弱いものになってしまっています。
しかし一方で、実際の支援の現場では、より困難の多いホームレス状態の方ほど、すぐさま「就労」ではなく、さまざまな生活課題を少しずつ解きほぐしながら地域移行を目指していくプロセスになることが多く、そういった就労というレールにのることが難しい方に対しての支援施策に対しての財政的な裏付けや、そのニーズを訴えていく必要があります。
また、どれだけ現場で支援をおこなっても、雇用情勢や労働環境、年金や医療保険の問題など、他の政策も含めてセーフティネットを拡充していかないと、河口でどれだけ食い止めていても、上流の蛇口が開きっぱなしでは、きりがなくなってしまいます。
貧困やホームレスの問題について、国がまずきちんと向き合い、他の施策と連動・連携しながら、また財政的な裏付けを担保し、区独自の取り組みを始めてもそれを支援するような体制を作っていくことを要望していくことが大切です。
東京都に対しては、例えば23区それぞれの地域事情はあるにせよ、公的住宅の拡充や低所得者向け住宅施策の整備、都単位での生活困窮者支援施策の策定、各自治体への財政的な支援などを求めていくべきです。
支援の現場である自治体と、東京都、国、そしてNPO等民間団体が連携して、ホームレスや貧困の実態を明らかにし、必要な施策を地域事情に沿う形で展開し、一人ひとりに状況にあった支援の在り方を模索していくべきです。
■その他 自由意見欄
新宿区は大規模ターミナル駅を抱え、ホームレスの方の推移も含め、都市型の貧困を象徴するような立地条件にあります。
しかし、それは逆に言うと、ここでのホームレスや貧困の実態の調査や分析、支援の在り方の試みが、全国的なモデルケースとなり、多くの自治体の先鞭となって新しいスキームを作っていく動きにつながっていく可能性があるということをあらわしています。
日本社会は超少子高齢化をむかえ、新宿区においても戸山団地など、社会的な孤立や生活困窮の課題が拡大していくことは間違いないでしょう。
ホームレス状態の方への支援施策を充実させていくことは、必ずしも貧困層の支援という枠組みに限定されたものではなく、例えば見守りや継続支援の施策が、区民サービスに応用できたりと、社会全体、区民生活全体の底上げにつながっていくものです。
区としてホームレスや貧困問題に取り組むということは、とても大きなメッセージです。ひいては首都東京のど真ん中で、官民連携しながら新しい支援スキームの作成や、新しい支援の在り方のモデル創出ができれば、それは画期的なことでしょう。
貧困が拡大するなかで、また、国や都、区の役割が変容していくなかで、いかに一人ひとりの実態に合わせた施策やサービスを整えていくことができるかは、これからの2010年代の大きなテーマであり、課題です。
新宿から始められることをぜひ一緒に作っていければと思います。
長くなりました。
以上
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