信濃毎日新聞2008年12月24日付けに「社説:年の瀬に 助け合いに希望を見る」の記事が掲載されました。
http://www.shinmai.co.jp/news/20081224/KT081223ETI090001000022.htm
不況や紛争を伝えるニュースが、ひときわ胸に突き刺さる年の瀬となった。
大企業が相次いで大規模な人員削減に乗り出し、仕事や住まいを失う人々が急増している。「派遣切り」「雇い止め」。非情な言葉が新聞紙面にも載る。
海外からは、紛争やテロによる犠牲者のニュースがひっきりなしに報じられる。国の内外を問わず、出口の見えない重苦しい空気が社会を覆っている。
こんな時代だからこそ、思いやりが心にしみる。助け合いのメッセージを大切にくみとり、そこに希望を見いだしたい。
<貧困が広がる>
例えば、生活困窮者の支援を続けるNPO法人「自立生活サポートセンター・もやい」(東京都新宿)である。路上で暮らす人々を支える活動を中心に、2001年にスタートした。
03年ころからは、ネットカフェの若者たちから相談のメールが入りだした。「仕事がない」「住まいがない」。若者たちの深刻な訴えが相次ぐようになった。いまでは、相談者の層は10代から80代まで広がっている。
ここ2、3カ月は、大企業などの人員削減の影響で相談件数が増え、電話やメールも入れると月に100件近くに上る。
「仕事と住まいは、暮らしを支える車の両輪。これが両方とも壊れ、難民化が進んでいる。貧困が一般化した印象が強い」。代表理事の稲葉剛さんは、最近の変化をこう説明する。
住まいや職探しなどの相談にのったり、生活保護の申請を手伝ったり、と活動は幅広い。ボランティアを含めて20人ほどのスタッフが取り組んでいるが、手が回らない状態という。
<命を守る活動>
背景に、政府・与党の労働政策がある。派遣労働を原則自由化し、2004年には製造業にも広げた。非正規雇用の労働者は、いまや3人に1人だ。不安定な働き方を余儀なくされてきた人々を、不況の波が襲ったのだ。
稲葉さんは1969年の生まれ。母親が広島市で「入市被爆」をした体験から、大学時代に湾岸戦争に反対する運動に携わった。その後はホームレスの人たちの支援活動に身を投じ、仲間たちと「もやい」を設立した。
「もやい」には、船をつなぎとめる意味がある。荒波が来ても、きずなが強ければ難破しない。そんな思いを込めている。稲葉さんにとって、「反戦」も「反貧困」も、命を守るという点で同じことなのである。
「相談も増えたけれど、たくさんの人たちの協力も寄せられている」という。厳しい時代だが、つながり合う気持ちも広がっていると考えたい。
ことしはもう1つ、忘れてはならない若者の姿が心に残る。8月末、アフガニスタンで犠牲となった日本の非政府組織(NGO)「ペシャワール会」(福岡市)のメンバー、伊藤和也さんだ。
ペシャワール会は、1984年からアフガニスタンなどで医療や農業支援を続けてきた。医師の中村哲さんをはじめ、スタッフの長年の地道な積み重ねが人々に支持され、信頼も厚い。
伊藤さんは静岡県の出身。高校や短大、米国滞在で身につけた農業技術を復興に生かしたいと、03年から現地に入って農業支援を続けてきた。
村人と一緒に干ばつの大地に用水路を造り、サツマイモやコメなどを栽培した。厳しい自然と戦争による荒廃に立ち向かい、展望が開けてきたところだっただけに、無念でならない。
「子どもたちが将来、食料のことで困ることのない環境に少しでも近づけることができるよう、力になれればと考えています」。伊藤さんがアフガン行きを志望したときの文章である。
<勇気をもらって>
先日、静岡県浜松市内で開かれた写真展、「大地に緑を アフガニスタンへの思い」を見た。伊藤さんやメンバーが撮った写真約50点が展示されていた。
屈託のない子どもたちの笑顔が、とりわけ鮮烈な印象を与える。「子どもたちが自然に集まってきたようです。信頼関係があってのことと聞きました」。母親の順子さんの言葉が胸に染みる。
「もうお会いできないと思うととても残念です」「写真や手紙を見るだけで、涙が出てきます」「日本人の誇りです」…。会場に置かれたノートには、そんな記述が目立つ。伊藤さんから、勇気をもらった人は多いだろう。
「もやい」や「ペシャワール会」は1つの例である。困窮者や紛争地の人々に対するさまざまな支援活動は、あちこちで広がりを見せている。政財界トップの言動の頼りなさとは裏腹に、人々の分かち合いの精神には、確かな手応えがある。
小さなことの積み重ねが、状況を変える力になると信じて、年の瀬を迎えたいと思う。
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