朝日新聞2009年1月20日付け朝刊で「派遣村」についての記事が掲載されました
貧弱な雇用の安全網 派遣村から見えた課題 支援施設、全国でも9自治体
東京・日比谷公園で年末年始に開かれた「年越し派遣村」は、「派遣切り」などで職と住まいを失い、困窮する人たちの姿を浮かび上がらせた。政治や行政を動かし、失業者らの自立を支援した派遣村の活動から見えてきたのは、セーフティーネットにおけるさまざまな課題だった。
東海地方で唯一、ホームレスの自立支援センターがある名古屋市。「派遣切り」で職と住まいを失った愛知県や周辺地域の人たちが、同市になだれを打って駆け込んでいる。
自立支援センターなどの一時保護施設は、すでにパンク。市は臨時にカプセルホテルなどを確保してきたが、受け入れ人数が700人に迫った13日、新たな宿の確保を打ち切った。一時は行き場を失い、区役所のロビーで毛布にくるまる人もいた。
北海道出身の男性(40)はハローワークで緊急貸し付けを申し込んだが「難しい」と言われ区役所に飛び込んだ。「就労はこっち、福祉はあっちで行ったり来たり。1カ所でできないのか」と疲れた表情で話した。
市は「相談者がこれほど多いと、一自治体が対応できるレベルを超えている」と訴える。
名古屋だけではない。自立支援センターがあるのは全国で9自治体。昨年12月中旬時点で、うち6自治体が「ほぼ満杯」(厚生労働省)の状況だった。
一方、労組や市民団体で実行委員会をつくる年越し派遣村。年末年始に集まった約500人の失業者らに、行政は手厚い対応を見せた。テント村からあふれた人たちに厚労省は講堂を開放。その後、東京都や中央区は、廃校になった小学校など都内4施設を提供した。「緊急小口資金」の要件を緩和し、都社会福祉協議会が約260人に1万〜5万円を貸し付け、それぞれの施設に就労、住宅、生活保護の相談を1カ所でできる「ワンストップサービス」の窓口も設けた。
大量の失業者が路上に放り出されていることを厚労省の足元で目に見える形にしたことで、政治も行政も動かざるを得なかった。だが、その対応は「派遣村」だけにとどまっている。
●乏しい資金支援策、生活保護頼み
派遣村の約280人が生活保護を申請した。実行委員会は「生活保護以外に利用できる制度がなかった」と話す。雇用保険に加入していれば失業手当を受け取れる。だが、「1年以上の雇用見込み」という要件を満たせないなどの理由で加入できない非正社員が多い。ハローワークへの交通費すらない失業者には当座の資金が必要だが、保証人不要の社協の緊急小口貸し付けは「火災での被災」など要件が限られている。政府が緊急に設けた「就職安定資金融資」は住居を先に見つけるのが条件だ。
「頼みの綱」の生活保護だが、財政上の理由などから自治体の対応にはばらつきがある。派遣村では資産や親族の調査結果を待たずに、数日で保護費が支給された。都は「緊急性が高い場合は、こういった対応はあり得る」とするが「住所がないからだめ」などと窓口で違法に追い返される例は後を絶たない。申請から決定は原則14日以内と定められているが、それ以上に時間がかかることもある。
昨年12月15日。派遣会社を突然解雇され、寮を追われて野宿に追い込まれた元派遣社員の50代男性が、大津市に生活保護を申請した。しかし、保護決定の知らせがあったのは、申請から22日後の1月6日。保護費が支給されたのは、その3日後だった。
申請後、職探しの命綱である携帯電話料金を支払うと所持金はほぼ尽きた。NPO法人「大津夜まわりの会」が確保したアパートで、市の窓口で借りた1万円をやりくりしながら決定を待った。年末年始の食事はスーパーのセールで買ったおにぎりや支援者の差し入れの缶詰など。一日も早く定職を見つけたかったが、面接に行く交通費がなかった。同NPOの小坂時子理事長はため息をつく。「同じ国の同じ制度で、これだけ差があるのはどういうことなのか」
19日、派遣村実行委は厚労省に「派遣村での行政対応を、全国で当たり前にすべきだ」として、総合相談窓口のある緊急避難所の設置を求めた。村長の湯浅誠・自立生活サポートセンターもやい事務局長は言う。「低賃金で働いて貯蓄のない人たちが失業すると、簡単に貧困化してしまう。生活保護の手前に、再就職に向けて活動できる、つなぎの仕組みが必要だ」
◆安全網、かなり多重に用意
江利川毅・厚生労働事務次官 セーフティーネットはかなり多重に用意されている。派遣村には、解雇された後ネットカフェで持ち金を使い果たして来た人もいると聞く。解雇されるとわかった時に、早めにハローワークに来てほしい。事業主に掛け合うことや融資や住居の手配も出来る。基本的なことが活用されず、非常に残念だ。
派遣村については政治的な判断で早い対応が取られた。だが、どういう人たちが集まっていたかなど実態調査をすべきだ。派遣村の例だけでワンストップサービスが必要とは言えない。3月末に切られる人たちも今からハローワークに行けばカバーできる。雇用継続の要請、再就職の支援、雇用の創出などを組み合わせて対応していきたい。
◆公的支援の場、全国に必要
橘木俊詔・同志社大教授(労働経済学) 仕事と住まいを失い、助けを求める労働者は、地方にもたくさんいるはずだ。派遣村のような民間の活動には限界があり、国や自治体による支援の整備が求められる。「ここに来れば、居場所と就職のあっせんを受けられる」という公的な場が全国に必要だ。
また、非正規労働者が増える中、労働者は誰でも雇用保険を使えるようにすべきだ。加入要件を緩和する法改正が予定されるが、それでも漏れる労働者が出てしまう。納付と給付のバランスを保つために、短期間の加入者に対しては、失業給付ではなく、緊急の貸し付けをし、仕事が見つかった後に返済するようにすれば良いだろう。
■年越し派遣村の経緯
08年12月31日 厚労省近くの日比谷公園に開村。約100人が年を越す
09年 1月 2日 宿泊者が270人を突破。厚労省が省内の講堂を開放
5日 日比谷公園では閉村。期間中の登録者は約500人。このうち、約300人が都内の4施設へ移動
8日 生活保護支給決定開始。9日までに272人が認められる
13日 村民約170人が都内2カ所の旅館へ移動
19日 旅館の滞在者は75人に
■派遣村に来た人の内訳
派遣切りで仕事と住居を喪失 73人
不況の影響で失業(派遣以外) 70
日雇い派遣で仕事がなくなる 57
以前から野宿状態 33
生活保護が受けられない 9
その他 103
無回答 9
(派遣村実行委が354人に対する聞き取りからまとめた。「その他」には、仕事に関して不明確な人が含まれる)
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