稲葉剛「生存権保障の後退を懸念」(毎日新聞 2013.5.3)
カテゴリ : 発表資料 投稿日時: : 2013-05-07 23:37:12 (1915 ヒット)
毎日新聞2013年5月3日付け東京朝刊の「論点」欄に
稲葉剛「生存権保障の後退を懸念」が掲載されました。
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論点:憲法をめぐる課題とは
生存権保障の後退を懸念
稲葉剛(NPO法人自立生活サポートセンター・もやい代表理事)
「健康で文化的な最低限度の生活」を保障する憲法25条が危機的な状況にある。
昨年、芸能人の親族の生活保護受給がきっかけでバッシングが起き、政治家が「生活保護を恥だと思わなくなったのが問題」などと発言した。兵庫県小野市は4月、生活保護費や児童扶養手当の受給者がパチンコなどに浪費することを禁じる条例を施行し、市民の通報を義務づけた。
不正受給が横行していると言われるが、金額ベースでは0・5%以下に過ぎない。逆に、利用すべき人が利用できないことの方が問題だ。受給資格がある世帯のうち、実際に受給できている世帯の割合を示す「捕捉率」は2〜3割にとどまっている。生活保護利用者は過去最多の約215万人に上るが、背後には少なくとも450万人の人が、収入が生活保護基準以下で資産もないのに受給していない状態にあるとみられる。
背景には、福祉事務所が申請に来た人を追い返す「水際作戦」があるが、生活困窮者自身も「恥ずかしい」「後ろめたい」意識から相談に行かないことも多い。バッシングや財政悪化の中で生きる権利を主張しないことを「美徳」と取る風潮が広がっている。
生活困窮者の餓死や自殺も後を絶たない。厚生労働省の人口動態調査では1995〜2011年の「食糧不足」が原因の死者は1129人いる。
安倍政権は8月から生活保護基準を3年かけて段階的に引き下げる。保護を受ける人の親族の扶養義務強化も検討している。これは事実上の憲法25条の解釈改憲だと思う。
高齢者や障害者が多い保護受給者にとって月額数千円の引き下げは極めて深刻だ。夏の暑さをしのぐ冷房代を切り詰めれば、生命の危機につながりかねない。資産のある家族に頼れといっても、配偶者や親から暴力や虐待を受け、家族に居所を知られれば身に危険が迫る人もいる。
生活保護法は1946年の制定当初、「勤労意思のない者」「素行不良者」「扶養義務者が扶養をなし得る者」を保護対象から排除したが、4年後の50年の改正で無差別平等の原則を確立した。今回の見直しは時計の針を60年以上前に戻すものだ。
自民党は憲法改正草案で「家族は、互いに助け合わなければならない」(24条)と規定した。東日本大震災で「絆」の大切さが強調されたが、家族や地域の自発的な支え合いを政治が利用し、政治が果たすべき責務を果たしていないと感じる。草案では基本的人権の普遍性に関する条文(現憲法第97条)が丸ごと削除されているなど、個人の人権を尊重する姿勢も大きく後退している。
私たちの「もやい」には生活困窮者からの相談が毎年1000件くらいある。相談者の年齢は多様化しており、児童養護施設を出て仕事が見つからない10代の若者から80代の年金生活者まで来る。
「税金を投入している制度の利用者はある程度、人権を制限されても仕方がない」と主張する政治家もいる。だが、その論理を認めれば、医療・介護・年金を含めた社会保障制度全般に影響が及ぶ。政府の社会保障制度改革国民会議では社会保障費抑制に向けた議論も始まっている。
憲法改正論議とともに生活保護制度が後退すれば、人々の命と暮らしを支える全ての制度が利用しづらくなりかねない。【聞き手・青島顕】
◆稲葉剛(いなば・つよし)
1969年生まれ。年に東京・新宿の路上生活者支援を始め、2001年もやい設立。生活保護問題対策全国会議幹事。著書に「ハウジングプア」など。
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